公開日 2019年01月22日
なまこ壁通り |
建物の壁面に平瓦を貼り、「目地」と呼ばれる継ぎ目に漆喰をかまぼこ型に盛り上げて塗り、その形が海にいる「なまこ」に似ていることからなまこ壁と言われています。
明治初期、松崎では養蚕が盛んになり、折からの絹の輸出ブームで富を得た人たちが、それまであまりなかった瓦葺きの家を造るようになります。松崎の冬の西風は猛烈で、吹き始めると3日は止みません。そこでより堅牢で、火事にも強い建物が求められました。瓦を壁にも使用し、漆喰で塗り固めるなまこ壁が、こうして造られるようになったのです。やがて林業や漁業の発達もあり、豊かになった人たちが競うようになまこ壁造りの家を建てていきました。「なまこ壁」は職人と風土、産業が活発化した時代の産物だったのです。
近年、生活様式の変化や老朽化により数が少なくなってはいるものの、松崎町には、今もなお多くのなまこ壁の建物が母屋として、土蔵として人々の日常生活の中に溶け込み、残っています。
白と黒が織りなすデザイン、重厚な外観、入念な仕上げの漆喰、建物にさり気なく施された漆喰鏝絵の妙など、そこには左官職人の技が凝縮されています。
松崎のなまこ壁
なまこ壁には、瓦を横に貼った「芋目地」、「馬乗り目地」もありますが、松崎町では方形の瓦を斜めに貼ることにより水はけをよくした「四半目地」が一般的な形となっています。
セメントや建築用ボードのなかった時代、「なまこ壁」は激しい風雨や火災から人々の暮らしを守ってきました。母屋の妻壁や腰まわり、土蔵などに代表されますが、類焼を避けるよう隣接する部分にのみ用いる家もあります。町内の分布は、中川の池代・大沢・船田地区、岩科の山口・八木山地区、松崎の中宿通りなどに数多く見られます。
平成14年調査
- 棟数189棟(種類:母家52棟、蔵126棟、その他11棟)
- 建築年代 明治中期から昭和初期
漆喰鏝絵
持ち送りやゑぶり、のし止めには、波の模様や雲の形、うさぎに鶴と亀、牡丹に唐獅子などの鏝絵が施され、厄除けや日除け、子孫繁栄などの願いが込められています。妻壁に家紋が施されている建物もあり、腕を磨き、技を競い合い、損得や手間をも度外視した職人気質が各所に見え隠れします。
持ち送り | ゑぶり | 妻壁 |
黒漆喰のなまこ壁
旧依田邸と明治商家中瀬邸には、珍しい黒漆喰のなまこ壁があります。
松煙炭を混ぜた黒い漆喰を上塗りで薄く磨き上げる仕上げで、光沢が出ます。左官職人の労力や技術を要し、財力のあった裕福な家でしかみられません。
なまこ壁の再評価
松崎町は平成25年10月4日、「日本で最も美しい村」連合に加盟しましたが、その中で「なまこ壁の建造物」、「塩漬けのさくら葉」、「石部の棚田」の3つを地域資源としており、なまこ壁建造物の資源価値が再認識されました。
平成27年には、当町出身の左官の神様と呼ばれた入江長八の「伊豆の長八生誕200年祭」が開催され、なまこ壁の保存の意識の醸成が図られました。
観光施設としての活用
重要文化財岩科学校、明治商家中瀬邸、伊豆文邸などのなまこ壁の建造物は、観光施設として活用されています。
特に重要文化財岩科学校は、明治13年に建築された和洋折衷の擬洋風建築の造りとなっており、全国に明治期に建てられた擬洋風建築の学校が残っていますが、数少ないなまこ壁が施された学校です。
重要文化財 岩科学校 | 明治商家 中瀬邸 | 伊豆文邸 |
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文化財の指定状況
- 旧岩科学校は国指定重要文化財、依田家住宅の主屋と蔵3棟は県指定文化財となっています。
依田家住宅 主屋 | 依田家住宅 蔵3棟 |
松崎蔵つくり隊
「松崎蔵つくり隊」は、町づくりの地域資源であるなまこ壁の重要性、価値を再認識し、将来に向けて保存活動を展開しようと、平成16年4月に観光関係者、建築関係者、定年退職された会社員や教育関係者、公務員など様々な職種の人たち20名で結成されました。
隊員は、なまこ壁の保護、保存はもちろん実際に蔵つくりに関する技術を学んで、自分たちでも「蔵をつくりたい」と活動を続けています。
なまこ壁技術伝承事業
建築様式の変化により、家の建築の際の左官の仕事が減少しています。松崎町では、左官技術の伝承や町並み整備を目的に、平成6年度から、民間のブロック塀などになまこ壁を施工する「なまこ壁技術伝承事業」を実施しています。
事業対象区域は、長八美術館や伊豆文邸、明治商家中瀬邸などなまこ壁の建物が多く残っている旧町内エリアを対象としています。
事業実施方法については、観光協会に毎年度100万円を補助金として支出し、観光協会は仕事を左官組合などに依頼する形としており、平成29年度末までに690mが施工されました。
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旧依田四郎邸(塀部分はなまこ壁技術伝承事業で施工) |
松崎発なまこ壁と鏝絵を未来へつなごうプロジェクト
平成27年から有志で活動している団体で、これまで中学生や高校生も参加したなまこ壁の清掃活動やなまこ壁の顔出し看板の制作などを行っています。
伊豆文邸横の足湯前に設置された顔出し看板 |
なまこ壁建造物の現況・課題
老朽化や家の建替え、維持管理費の負担などから、伝統的建造物であるなまこ壁の建物が減少しています。
平成14年の調査で209棟あったなまこ壁の建造物は、平成27年の調査では190棟に減少しています。
また、空き家も増加しており、平成27年調査では190棟のうち28棟が空き家となっており、維持管理機能の低下が懸念されます。
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