雲見浅間と木びきの善六

公開日 2021年02月03日

雲見漁港を見下ろす烏帽子山の浅間神社は、「雲見浅間」の名で親しまれている名勝の一つだが、この神社にまつわる昔話に、「木びきの善六」という話がある。

 

昔、伊豆のある村に善六という名の若い木びき(製材職人)がいて、体格がいいくせに力がなく、仕事ものろいので仲間たちから、「あいつは木びきじゃなく小びきだ」と馬鹿にされていた。

そこで善六は雲見浅間のおこもり堂で、7日間も断食の行を続け、「どうか石もらくらくひけるほどの力をお与えください」と、ひたすらに祈った。その結果、ついに石でさえ楽にひけるようになったけれども、木をひくことができなくなってしまった。

やがて善六は「自分が石屋でもないのに、石が切れるように祈ったのは間違いだった。木をひけるように力を与えてください、と願をかけなければ・・・」と気づき、改めて雲見浅間にお祈りをして、生まれ変わったような木びき名人になった。その後、江戸に出た善六は深川の木場でさらに木びき職人としての腕をみがき、8~9年ののちお金をいっぱい貯めて村へ帰ってきた。

そして、天城山中で木びきの仕事を始めようとしたところ、かたわらに同じ仕事をしている童子を見かけ、二人でひきくらべをする。だが童子の早わざに善六は追いつけない。そのときやっと、「自分の力を自慢しようと思ったのがいけなかった。これはきっと、雲見浅間の神さまが童子の姿で現れ、いましめてくれたのに違いない。」と気づく。

童子に向かって思わずひれ伏した善六が、恐る恐る顔をあげてみると、そこには童子の姿は影も形もなかった。

 

参考文献

伊豆まつざき小辞典 昭和60年11月1日発行