齋藤定蔵

公開日 2019年01月22日

 南鳥島の発見者  齋藤定蔵

 

齋藤定蔵は、文久元年(1861年)4月4日、岩科村岩地(現:松崎町岩地)齋藤七右衛門(屋号阿波屋)の長男として生まれた。阿波屋は代々(秀吉の時代)鰹釣漁船八幡丸の船首であるとともに鰹節製造が生業であった。また徳川中期より阿波の国(徳島県)の船宿も営んでいた。

定蔵は、幼い頃より大沢の依田家で預けられ、三余塾に学んだとのことである。非常に進取の気像に富み、不羈奔放の人であったようである。家業を隠居と親戚にまかせて色々の事業を実行した。

私達が小学生の頃毎年10月の恵比寿講に招かれると、伯父伊勢右衛門よりいつも定蔵じいさんの南鳥島航海談は話され、興味深く聞いたものである。六分儀(天体の高度を測る器械)を持って、これで太陽の高さを測って船位を定めた、という話にこんなもので船の位置が分かるわけがないと、子供心に思ったことを覚えている。

「外務省外交資料館所蔵資料帝国版図に関する雑件(1918年)による漁礁海山発見開拓の沿革(佐藤孫七)の書によると、明治12年(1879年)西伊豆岩地村の齋藤清左衛門(定蔵)は帆船晴海丸(約30屯)で、8月焼津港を、新島発見のため、仲間とともに出帆した。

小笠原群島父島に寄港後出帆「同島ヲ距ル東南凡ソ七百海里ノ洋中ニ位シ マルカス島ト称スル」(原文・外務省外交史料館所蔵資料による)

一孤島を発見したが、風波が荒くて上陸できなかった。

翌明治13年1月帰港したとある。南鳥島(マーカス島)は、北緯34度17分30秒、東経153度58分0秒で、我が国領土中最南東端である。その面積約1.3平方キロメートル高さ5メートルから7メートルである。

文中、齋藤清左衛門とあるが、これについては色々の考え方があるが家業をないがしろにして、各種の事業をしたため親戚から睨まれており、本名を出せなかったのではないかと思われる。伊豆七島沖の鳥島は、阿呆鳥が全山を覆って生息しており羽毛は高価で売れることを知り、船を使い鳥島で阿呆鳥を捕り東京で売ったという。捕獲は一尋大の棒で叩いて簡単に捕れたとのことであった。相当な金額を稼いだようである。

東京で豪遊した話が伝わっている。2回目の南鳥島航海のために資金を作ったのであろうか。その後明治24、25年頃、岩地梵天さん前の土地で製紙工場を建設し、女工30人を採用し操業を開始した。

当時正午を知らせた汽笛は村人たちには文明開化の響きであった。しかし開業まもなく生糸相場の大暴落にあい終業することになった。定蔵所有の蔵書がダンボールに1箱あったのを覚えている。独学で航海術天文航法を学び、新島発見のために意欲をもやしたものと思われるが、あの島は鳥の糞でできた島だから島の土を持って帰れば肥料として売れると言っていたという。

航海経費の足しにはなると思っていたのかもしれない。

外交史料館文書によると、その後明治26年(1893年)5月、風帆船晴海丸「船長静岡県人齋藤清左衛門」来島、風波障害少しと見て乗員2名とともに上陸し島内を詳細に調査したとある。航海談によると、その地点に来ても島を発見できず3日ばかり付近を調査し、ようやく発見した一同は抱き合って喜んだとの話であった。南鳥島から持ってきた土でトマト(当時赤茄子)を栽培したが、定蔵の父(七右衛門)の後妻(わか)の話では、臭くて食べられなかったとのことであった。

 

その後養鶏、養豚、岩科亀郷で樟脳製造工場、伊那上神社裏で瓦工場を経営したがいずれも失敗した。父祖伝来の家業を顧みず、次から次へと事業を起こしたのは三余塾で学んだことを実行して世の中のためになろうとしたのであろうか。しかし、これでは阿波屋の家は倒産すると隠居、親戚、船頭たちが相談して追放された。

 

定蔵は俳句もよくし、雅号を宙船といった。雅号は果てしない太平洋にロマンを追い続けた彼の生涯を言い得て妙である。

その後放浪の旅を続けたが、晩年岩地に帰り波乱多き人生の幕を閉じた。時大正10年(1921年)4月16日享年60歳であった。しかし、晩年は不遇な人生であったとはいえ明治初期から中期にかけて、30屯位の帆船で天文航法を使い、測々たる太平洋に、新島発見に意欲を燃やした旺盛な不撓不屈の精神と、発見によって現在南鳥島を中心とした200海里漁業専管水域で、日本の漁船が安全に操業できることを考えると、漁業に関するその功績の甚大なることに、衷心より尊敬と感謝を表する次第である。

 

町史編さん委員 齋藤伝吉

 

 参考文献

  • 町制施行100周年記念誌 郷土の先覚者たち(平成13年2月 松崎町発行)

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