温泉開発と国民宿舎の発足

公開日 2016年02月04日

松崎の新しい産業は何か・・・。
様々な面が検討された。
折から高度経済成長時代へ入っていこうとしている時代である。旅行に対する人々の関心も高まってきている。地方に残された風物を訪ね、秘められた事物、文化財、史跡、歴史などに対する関心も深い。旅行からレジャーと人々の求める気持は急速に高まっていた面もある。
世は観光ブームの到来を告げていた。
観光開発は、全国的に広まる傾向にあった。
伊豆西海岸の小さな港町としての松崎も観光面に対する関心は大変高いものがあった。
「何にもない松崎に、観光開発といったって、何ができるのか・・・」
当初はこんな疑問も多く囁かれたものであった。
しかし松崎町は、観光開発に力を注いだ。
「観光でしか、町の生きる道はない」
町の関係機関では、観光開発に対して、意欲的に取り組んで行った。
〈観光には温泉が必要〉
このことは、日本人の長い間に培われている旅行のあり方をみていると、ほとんど一部の特殊な例を除くと、絶対的にといってもいい条件になっている。
発展している観光地をみても、それはいえる。
〈湯とうじ〉
といった、温泉場の発達は、明治に入る以前、江戸時代から存在していることは、多くの文献に表われていることでもある。
湯治場としての温泉地は、近年に至って、行楽の場としての温泉地へと変貌していくところが多いが、歴史を遡ってみると、純然たる病気保養の湯治場から、日頃の仕事の疲れを休める、
〈ものみゆさん〉
のスタイルまであったもので、これらには今日の行楽の原形を見い出すことができるものである。
今日、伊豆の最大の温泉観光地と言われる熱海にしろ、また東海岸の伊東にしろ、昔を遡ってみると、湯治、保養の温泉場として長いこと利用されていたことが判る。
こうしたことから、
「松崎にも温泉がほしい」
そして、
「温泉を開発しよう」
方針がかたまって、各地調査を進めることになった。かつて岩科川のほとりの道部に鉱泉が湧いていたことがある。温泉開発の下地はあった。
福島大学の三本杉博士の調査によると、松崎の温泉は、大変有力である、ということであった。
伊豆の温泉は、今まで東海岸から天城にかけて開発され、昔からも知られていたが、西海岸にかけては、それほど大きくは知られていなかった。
西海岸では、土肥温泉が早くから知られ、また三浦の雲見にも、雲見温泉があって、海岸線にそっての温泉脈の存在はかなり有力視されていた。
開発が決まってからは、町費をもってボーリングを行い、昭和38年にしゅびよく温泉の湧出に成功したものであった。松崎町営温泉第1号で、温度は37℃、毎分200Lの湧出であった。
〈温泉湧出に成功〉
をみたことによって、松崎町の観光開発は、着実な第1歩を踏み出すことになった。
「温泉の活用をどうするか」
議会ではさまざまに意見が出されたが、国民宿舎の建設計画が議会で決定をみた。
観光開発には、客を呼ばなくてはならない。
〈宿泊施設が必要〉
である。それも10人、20人の小さな規模のものでは仕方がない。しかも、費用はあまりかけなくて、何より、
〈安心して利用できる〉
施設でなくてはならない。
「政府資金の融資による公営宿泊施設を」
ということから、国民宿泊の建設が立案されたわけである。
初めは一部の業者から反対の声もあったが、温泉ボーリングの推進と同時並行して宿舎の建設も進み、昭和39年には、湧出をみた温泉の引湯設備も整って、8月にはオープンにこぎつけたものであった。温泉は、当初は37℃で幾分温いところから加熱されていたものであるが、その後、さらにボーリングは進んで、昭和42年には56℃の熱い湯の掘削にも成功し、町内の各旅館、民宿、一般家庭にまでも引湯され、名実ともに温泉町としての松崎が整ってきたものである。国民宿舎伊豆まつざき荘は、初代支配人の山本源一さんをはじめ、歴代支配人、従業員の熱心な努力によって、
「伊豆一、いや静岡県下でも第一」
とまでいわれるほど人気の高い宿舎に押し上げ、松崎の観光に大きく寄与したものであった。
続いて松崎町では、三浦地区の岩地、石部の温泉開発がすすめられ、昭和45年頃から続々と湧出に成功、温泉民宿が出現した。古くからある雲見と合せて、松崎温泉郷が形成されるようになってきたものである。町中で行き会う人に、時々尋ねてみると、
「松崎は本当に何んにもないところで・・・」
返事はいつも決まった言葉が返ってくる。
「そんなことはない」
松崎は、沢山のいいものを持っている。第一、温泉が1つの町内で、大沢,松崎,岩地,石部,雲見と5ヶ所も持っていて、一大松崎温泉郷をつくり上げている。
一方では、古社寺,史跡,伊豆長八に代表される芸術,岩科小学校などの文化財,さらには民話,伝説,民族,習慣,くめどもつきない歴史ロマン,そしてどこを歩いても一面の花の里への町ぐるみの努力など、松崎は、西海岸のみならず、伊豆半島の名観光地としての歩みを、どこから見ても恥ずかしくない存在として、1歩1歩踏みしめて来たし、また将来も踏みしめていかなければならない。

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