津波対策講演会を開催しました

公開日 2016年02月03日

松崎町では那賀川河口周辺の治水対策を考えていくために、平成23年12月6日(火)に、県の審議会等でご活躍されている津波対策のソフト、ハードそれぞれの分野の専門家をお招きして、今後の津波対策等についての講演会を開催しました。

講演内容

「東日本大震災を踏まえた今後の津波対策のあり方」

講師

富士常葉大学社会環境学部
阿部郁男准教授

講師略歴

静岡県防災・原子力学術会議 津波対策分科会 委員
専門分野:津波工学、災害情報、情報科学

講演要旨

こんにちは。富士常葉大学の阿部です。
今日は「東日本大震災を踏まえた今後の津波対策のあり方」ということについてお話します。
私は岩手県の山田町の出身で、3月には仙台にいました。
その体験を踏まえ、

  1. 東日本大震災の被災地の事前対策
  2. そこでの被害と教訓
  3. 東海地震に備えた津波対策のあり方についてという、3つのテーマでお話しをしたいと思います。

 1.東日本大震災の被災地の事前対策
東海地震も、「来る、来る」と言われて、もう30年以上がたっています。
東北地方も頻繁に地震が起きるところですが、今回は宮城県に着目して整理してみました。
宮城県沖地震は37年周期で発生しており、そろそろ来るといわれていました。
その隣りを震源とする三陸沖地震も104年周期で、前回の地震からすでに114年経過しており、
2つが一緒に起きる最悪のシナリオも考えられていました。
宮城県では、マグニチュード8.0、県内の半分が震度6強、津波は仙台湾で2~3メートル、気仙沼では10メートルと想定されていました。
静岡県でも沼津の内浦で10メートル、富士から静岡で2~3メートルの津波が想定されており、
よく似ています。
宮城県でも、水門か堤防かで議論していた町もあり、宮古市の鍬ケ崎地区は漁業者の反対で防潮堤もない町でした。


2.そこでの被害と教訓
今回の東日本大震災は、宮城県沖から始まり、福島沖、岩手沖が一緒に滑り、地震が発生しました。1900年以降では4番目に大きいマグニチュード9.0という地震でした。
千年に一度の大地震と言われていますが、山田町に限って言えば、1611年の慶長の地震と同じクラスの津波が町を襲いました。
私は発災時には東北大学で、13階建ての建物の11階にいましたが、緊急地震速報を聞いて、ヘルメットをかぶり、机の横で身構えていましたが、震度6強の地震が起きると、パソコン等の物を抑えるだけで、余裕はありませんでした。
電気も止まり情報が何も入ってきませんでしたが、気象庁は最初、マグニチュード7.9、3メートル以上の大津波と発表しましたが、釜石沖のGPS波浪計で6メートルの波を観測したことから、28分後に10メートルの大津波に変更したようです。
静岡にも御前崎沖に1基GPS波浪計が設置されています。大津波警報が出ていても、「14時59分に大船戸で0.2メートルの津波を観測した。」と聞いて家に戻った人もいたようです。
そして亡くなった方もいらっしゃいます。津波警報の限界を感じました。
私の実家は10メートルの高台にあり、浸水想定区域には入っていませんでしたが、慶長の地震の際には浸水しているところなので逃げるように、両親に言ってありましたので、両親は無事でした。しかし、1階の軒下まで浸水し、大規模半壊となりました。
私の家の下側の家は何も残っていませんが、裏側はなんでもないので、同じ地区でも復興には大きな違いがあります。


3.東海地震に備えた津波対策のあり方について
津波ハザードマップは、一定の想定をもとに作りますが、想定どおりに起こる方がまれなことです。
一定の想定(目標)がなければ、話しが進みませんが、実際と想定の違いで被害が起きます。
想定よりも小さな津波ならば被害は出ませんが、想定よりも大きな津波の場合には、施設では防ぎきれないので、如何に時間を稼ぐかということになります。
また、想定を超えたときのシナリオを準備しておくことが大事です。
松崎の町を拝見しましたが、海側には防潮堤が整備されていますが、河川には堤防や水門がないので、第3次地震被害想定でも町の中に浸水します。
小さな津波から町を守り、大きな津波からは避難する時間を稼ぐために水門の整備か、河川堤防の整備が必要と思います。
沼津港の「びゅうお」のような活用を考えるのもよいかと思います。施設で防ぎきれない津波に対しては、場所ごとに考え、逃げにくいところから避難施設の整備を考えることが必要でしょう。
先程お話しした宮古市の鍬ケ崎地区は津波で町が壊滅しましたが、防潮堤のかさ上げをした高浜地区では、津波が防潮堤を超えても家が残っています。
この違いは大きいと思います。
宮城県ではGPS波浪計での観測に基づき何分でどのくらいの津波がどこまで到達するか、シミュレーションするシステムを作っていましたが、静岡でも役立つと思うので県の会議などで提案しています。
時間が来ましたので以上で終わります。

 

講演内容

「津波対策におけるソフト対策の改善方策と課題」

講師

静岡大学防災総合センター
原田賢治准教授

講師略歴

静岡県防災・原子力学術会議 津波対策分科会 委員
専門分野:津波工学

講演要旨

静岡大学の原田です。
先程阿部先生からハード対策についてのお話しがありましたので、私はソフト対策についてお話しします。
まず、津波対策とは何かということを考えたときにいろいろなことを準備しなければいけないことがあります。
津波という海からの物理現象によっておこる問題に対してどういう対策がとれるのかということです。 東日本大震災では人だけでなく家等にも大きな被害が出ました。
まず人の命を守らなければなりません。
今回の大津波の被害者は溺死だけではなく、建物と一緒に流され、建物がつぶされて打撲や、がれきが刺さったり、圧迫による死者もいます。
津波の中にはいろいろなものが流されています。

地震によっても被害に違いがあり、東日本大震災では死者が2万人を超えましたがそのうち92パせ―ントが溺死者です。
同じような大きな震災でも、関東大震災では焼死が最も多く10万人で、阪神大震災では建物倒壊による圧死者が多数を占めました。
そうした被害を踏まえて、関東大震災の後は火災に対する対策が検討され、阪神大震災の後には建物の建て方が検討されてきました。
今回の東日本大震災では津波対策をしっかりしないといけないと言われています。

多くの人が津波で流されて亡くなっています。
津波が来るまでにどう逃げるのかが重要になってきます。
災害をもたらす現象、簡単にいえば「津波」とか「地震」という物理現象と、「社会の弱さ」が重なると被害が発生します。
準備によって被害は変わります。
分かりやすく言うと、3メートルの防潮堤のある地域に5メートルの津波が襲ってくると津波が防潮堤を乗り越え被害がでます。
ある程度余裕を持って耐える力を作っておかないと、いざというときに足りなかったということが起こります。

大きくわけると3つの津波の対策があります。
津波から「防ぐ」という意味では、防潮堤や水門があります。
「逃げる」という意味では、緊急避難や高台への移転ということもあり、「耐える」ということですと、なかなか難しいのですが、津波にのみ込まれても耐えられる建物を作ったり、シェルターという考えがありますが、最後の「耐える」という対策は自然との賭けともいえます。

日本では1997年に、1.構造物を作って生命、財産を守る。2.高台への移転等のまちづくり。3.組織や情報をうまく使って命を守ろう。という3つの国の方針が示されています。私の言った「耐える」という対策は入っていません。

時間軸で考えると、「事前」、「津波到達時」、「災害対応時」というものがあります。
最終的に津波が来て人が死なないのが一番の対策だと思います。
そのために何をしたらよいかは地域によって違います。
条件が違っても工夫して出来ることがあります。
誰が対応するかという人任せではなく、国、県、市町村、地域、個人のそれぞれが対応しなければ成立しません。

「事前」の対策としては、災害を起こらなくする対策、災害を小さくする対策があります。
この二つは似ているかもしれませんが違います。
「起こらないようにする。」というのは具体的に言うと堤防を作り水が入ってこないようにする。ということです。
しかし堤防には高さがあるので一定の限界がある対策と言えます。
その他に地震保険や共済制度などがありますがこれは起こってしまった被害に何かしらの形で補填しようという考えです。
どのように津波に備えるのか、どうやって安全な社会を作るのかということを考えるときに、最終目的は安全な社会をどうやって作るのかということにつながります。
危険性の低い社会はそう簡単には作れないと思います。
地震や津波はいつ起こるのか分からないので、優先順位の高いものは、すぐに逃げるようにするという対策だと思います。また、避難マニュアルの作成等もあります。
次に10年くらいの間に考える体質改善策として、防災対策もそうですし、健康増進により逃げられる人を増やす施策を取っていくとか、支援者を増やすということもありますし、防災教育ということもあります。
そして、30年くらいかける根本的な対策としてハード対策をしっかりやっていくとか、土地の利用規制をかける等もあると思います。
ハード対策とソフト対策は車の両輪です。
東北でも堤防を乗り越えてくる事例があったように、逃げるという対策も同時に必要です。
ハード対策には時間とお金がかかりますが、物を作ればある程度の効果もあります。
しかし超える場合もあります。
ソフト対策はものも作りませんし、お金もあまりかかりませんが、人や社会の労力がなくては機能しません。
我々みんなが協力しなければ被害を軽減できないものになります。
堤防を作っても、それを超えたら堤防が壊れて水がいっぺんに入ってくるような作り方ではなく、入ってくる水の量を少なくするような作り方をしなければ堤防を作る意味がありません。
ある値を超えても全面被害にならないようにしなければいけないと思います。
群馬大学の片田先生が熱心に防災教育をやってきた釜石市ではたくさんの子供が助かりました。片田先生は1.想定を信じるな。2.その状況下で最善の避難行動を取れ。3.率先避難者たれ。
という3つのことを教えてきたそうです。
受け身の姿勢ではいけません。
東北では地震から津波までの時間がありましたが、静岡では地震から数分で津波が襲ってきます。
危ないと判断したら、すぐに逃げなければいけません。
周りの人が逃げないからと言って、避難しない人がいます。
しかし危ないと思ったら逃げることが大切です。
また、南三陸町では防災庁舎が流されましたが、どこに逃げるかということも重要です。
和歌山県では逃げられる地域と逃げられない地域があることを地図に示し、公開しています。
堤防を作ったら終わりではなく、自分たちにどういうことが出来るか、話し合いを継続していくことが大事です。
個人として出来る防災対策として、「知る」、「考える」、「行動する」ということが重要になってきます。
「災害から身を守ろうという主体的な意思」を持ってください。
行政任せの防災では被害を拡大してしまいます。
地域の人たちが行政と一緒に、継続的に防災に取り組んでいくことが大事だと思います。

 

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