公開日 2016年02月02日
第18回長八まつり
総評
全国漆喰鏝絵コンクールを継続して開催していくことの意義が、松崎町出身の入江長八の卓越した技能を継承しながら、さらに未来に向けて新しい鏝絵の世界を展開させる企画を全国に発信することにあるとすれば、今回の第2回コンクールの応募作品の全ては、そのための貴重な一里塚となりうる価値あるものだと思います。
審査に当っては、様々の傾向にある作品をできるだけ幅広い視点からその長所と可能性を見出せるように、6人の審査員の合議によって行いました。
その結果、本コンクールの傾向を1つの特質によって限定するのとは正反対の、つまり、様々なタイプの作品が有する固有の価値を評価するという方向になりました。それについてはご批評もあるかもしれませんが、改めて考えてみると、長八の仕事それ自体が、単眼的に固定化して見ることにそぐわないのではないでしょうか。
絵画と彫刻という2大芸術の枠にとらわれず、それを超越した広大な世界で自由に自己の感性を羽ばたかせた長八の並外れたスケールの大きさに目を向けることが何より大切だと思われます。だとすれば、職人的技能と芸術的独創性についても、それを全く別個のものであるかのように、二者択一的に考えることも避けるべきでしょう。アート(芸術)の語源はアルテ(技能)であったわけで、本来、両者は不可分の関係にあるはずです。
表現したい独創的なイメージがあってこそ生かされる技能であることを思えば、今回の最優秀作品となった加賀美氏(山梨県)の「登竜門」はまさにそのことを作品において具現化していると思います。優秀作品の寺尾氏(愛知県)の「一匹のワニ」と小林氏(栃木県)の「渓流」は全く傾向が異なる作品ですが、それぞれ自分の目指す世界をもっており、今後の発展が期待されます。
最初に述べたように、今回の全応募作品は、作者の固有の立場から最善をつくした価値あるものばかりなので、運営上の理由から、入選と選外の峻別を行わなければならないのは心苦しいことでした。そこで、事前に公表している賞を伴う入選作品意外に、展示のみとする入選作品をさらに15点選抜することにしました。
それは、松崎町発信の鏝絵コンクールが真に全国、あるいは将来は国際的にも展開していくことを期する主催者の願いが込められたものとしてご理解いただけたらありがたいと思います。
富山大学教授 丹羽 洋介
審査員
- 富山大学教授:丹羽 洋介
- ビュフェ美術館参事:安達 めぐみ
- (社)日本左官業組合連合会会長:池本 孝
- 彫刻家:平馬 学
- 漆喰鏝絵職人(一級左官技能士):山本 堪一
氏名 | 作品タイトル | 地域 | |
最優秀賞 | 加賀美 二朗 | 「登竜門」 | 山梨県南巨摩郡増穂町 |
優秀賞 | 小林 昭 | 「渓流」 | 栃木県宇都宮市 |
寺尾 晴美 | 「一匹のワニ」 | 愛知県春日井市 | |
入選 | 野津 義輝 | 「雲に乗る」 | 茨城県つくば市 |
塩川 甲子夫 | 「滝の緋鯉」 | 神奈川県横浜市 | |
田畑 晃 | 「双龍」 | 富山県上新川郡大沢野町 | |
野中 順子 | 「カサブランカ」 | 愛知県名古屋市 | |
中井 史枝 | 「剪定」 | 三重県阿山郡阿山町 | |
山倉 忠男 | 「世直し龍観音」 | 福岡県田川市 | |
中村 一夫 | 「勢至菩薩」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
佐藤 さつき | 「白サギ」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
岡本 昇 | 「酉」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
新田 文江 | 「夕日」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
土屋 明子 | 「朝顔」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
斉藤 志げ子 | 「虎」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
壬生むつみ | 「風神」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
特別賞 | 堀江 弥太郎 | 「盤寿」 | 東京都三鷹市 |
佳作 | 桜庭 喜幸 | 「花」 | 秋田県南秋田郡五城目町 |
鷲谷 隆 | 「秋田竿燈まつり」 | 秋田県南秋田郡五城目町 | |
沼田 友恵 | 「思い」 | 富山県小矢部市 | |
松崎 洋子 | 「夢」 | 富山県富山市 | |
渡邊 陽平 | 「消えゆく夢」 | 富山県富山市 | |
北谷 至啓 | 「入道雲」 | 石川県金沢市 | |
水口 正至 | 「隼」 | 岐阜県郡上郡白鳥町 | |
青葉 直一 | 「踊る像」 | 静岡県磐田郡豊田町 | |
鈴木 勘一 | 「雄鶏」 | 静岡県磐田郡豊田町 | |
小林 佑子 | 「町の花つわぶき」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
鈴木 和枝 | 「雲中供養菩薩」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
細田 光代 | 「かんかんからす」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
密岡千代子 | 「松崎町(花とロマンの里)」 | 静岡県浜松市 | |
河合 英喜 | 「ひまわり」 | 三重県三重郡菰野町 | |
酒井 武雄 | 「古里の深雪」 | 福岡県八女郡黒木町 | |
応募者 | 星野 一男 | 「鐔」 | 群馬県沼田市 |
飯田 正 | 「犬吠域岬」 | 千葉県香取郡多古町 | |
手塚 忠昭 | 「初冬の浅間」 | 東京都杉並区 | |
渡部 正 | 「瞬き」 | 東京都武蔵村山市 | |
水澤 正二 | 「大黒天」 | 新潟県上越市 | |
森下麻梨絵 | 「開眼」 | 富山県小矢部市 | |
佐伯 昌徳 | 「花芽の季節」 | 富山県滑川市 | |
竹本 茂之 | 「面」 | 石川県金沢市 | |
保坂 勇義 | 「郷の思い出」 | 山梨県中巨摩郡若草町 | |
高橋 正道 | 「歓喜の詩」 | 長野県佐久市 | |
野田 証三 | 「昴(スバル)」 | 岐阜県郡上郡八幡町 | |
青葉 静江 | 「迷企羅大将像」 | 静岡県磐田郡豊田町 | |
鈴木 勝司 | 「達磨大師」 | 静岡県磐田郡豊田町 | |
黒田 福市 | 「虎」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
小林 悟 | 「慨魂」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
関 健一 | 「雲見港」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
谷川喜伊子 | 「故郷の春」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
船津 英江 | 「椿」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
山田 武雄 | 「土俵入り」 | 静岡県賀茂郡松崎町 | |
島野 信博 | 「海行かば」 | 静岡県静岡市 | |
津田 誠一 | 「大津絵」 | 滋賀県大津市 | |
橋本 裕司 | 「炎龍」 | 京都府京都市 | |
高野 正文 | 「錦帯橋」 | 山口県岩国市 | |
高松 忠義 | 「人魚」 | 福井県小郡市 | |
春野 修二 | 「場所」 | 福岡県遠賀郡遠賀町 | |
石田 覚蔵 | 「花と竜」 | 大分県宇佐郡安心院町 | |
宮城 満 | 「赤蟻」 | 沖縄県中頭郡中城村 |
最優秀賞作品
「登竜門」
加賀美 二朗
山梨県南巨摩郡増穂町
漆喰鏝絵の伝統をふまえながら、現代の感覚に通じる作品である。
彩色層を部分的に削る表現方法は見事だし、鯉が急流を登り龍となる姿を暗示的に演出しているのは心にくいばかりである。
優秀賞作品
「渓流」
小林 昭
栃木県宇都宮市
一見すると油彩画のようだが漆喰の素材感を生かした力作である。楽しみながら制作しているのが好ましいが、鏝絵独自の魅力の追求をさらに期待したい。
「一匹のワニ」
寺尾 晴美
愛知県春日井市
伝統に捕らわれない新しい試みが評価がされた。中南米を想起させるような明るい色彩は南伊豆の雰囲気にも共通しているし、大らかなユーモアの感覚は長八の作品の特質でもある。
入選作品
![]() |
![]() |
![]() |
「雲に乗る」 野津 義輝 茨城県つくば市 |
「滝の緋鯉」 塩川 甲子夫 神奈川県横浜市 |
「双龍」 田畑 晃 富山県上新川郡大沢野町 |
![]() |
![]() |
![]() |
「カサブランカ」 野中 順子 愛知県名古屋市 |
「剪定」 中井 史枝 三重県阿山郡阿山町 |
「世直し龍観音」 山倉 忠男 福岡県田川市 |
![]() |
![]() |
![]() |
「勢至菩薩」 中村 一夫 静岡県賀茂郡松崎町 |
「白サギ」 佐藤 さつき 静岡県賀茂郡松崎町 |
「酉」 岡本 昇 静岡県賀茂郡松崎町 |
![]() |
![]() |
![]() |
「夕日」 新田 文江 静岡県賀茂郡松崎町 |
「虎」 斉藤 志げ子 静岡県賀茂郡松崎町 |
「朝顔」 土屋 明子 静岡県賀茂郡松崎町 |
![]() |
![]() |
|
「風神」 壬生むつみ 静岡県賀茂郡松崎町 |
特別賞 「盤寿」 堀江 弥太郎 東京都三鷹市 |