公開日 2016年01月29日
第29回長八まつり
総評
伝統的スタイルの作品と新しいタイプの作品との対比がここ数年、私の関心の中心になっています。当初の頃と比べると年々新しいタイプの作品が多くなっていて、そのことを鏝絵の世界の新たな展開だと歓迎する立場もあり、逆に伝統的なものが失われているのではと危惧される向きもあるでしょう。募集要項では本コンクールの趣旨として「長八の伝統を踏まえた作品、新しい時代にふさわしい自由な発想の作品」を募集すると述べています。これによると、伝統的タイプの作品、(もしくは)新しいタイプの作品を募集すると読めるかもしれません。しかし、この両者は二者択一的に相反するものなのでしょうか。理想としては、長八の伝統を踏まえた上で、新しい自由な発想の作品を期待したいです。この理想について、私は確実に実現されつつあると思います。個人名を挙げて恐縮ですが、齋藤志げ子さんは第1回展から連続して出品されていますが、当初は天女や虎などをテーマに伝統的表現法で制作されていました。当初の作品はすべて技術的に勝れた見事なものですが、今回の出品作「木蓮(老木)」には、かつての作品には見られなかった作者自身の深い精神性が表出されていて見る人の心を打ちます。これは一例かもしれませんが、長八の伝統を踏まえるということは、何も、同じ材料、同じ技法で行うということだけではないと思います。最も重要なことは、長八の指針を引き継ぐということになるでしょう。長八自身について言えば、彼は、彼以前の昔のスタイルをそのまま伝承したわけではなく、正に(当時の)新しい時代にふさわしい自由な発想で制作したに違いありません。
大阪芸術大学 客員教授 丹羽 洋介
審査員
- 大阪芸術大学 客員教授:丹羽 洋介
- 美術評論家:安達 めぐみ
- (一社)日本左官業組合連合会専務理事:岡野 善司
- 神奈川県左官業組合連合会会長:三上 誠司
- 元月刊「さかん」編集長:小林 澄夫
- 長八作品保存会:関 賢助
氏名 | 作品タイトル | 地域 | |
最優秀賞 | 土橋 庄一 | 「薔薇とクリスタル」 | 京都府京都市 |
優秀賞 | 新井 良作 | 「ふる里」 | 埼玉県川越市 |
番清 光明 | 「梅花の頃」 | 広島県尾道市 | |
入 賞 | 小野 和司 | 「秋の恵の葡萄(ブドウ)」 | 埼玉県久喜市 |
大曽根 陽次 | 「試作6号」 | 愛知県豊田市 | |
刑部 安司 | 「ローカル線のユリカモメ」 | 静岡県浜松市 | |
笛田 将之 | 「検診」 | 埼玉県さいたま市 | |
中井 史枝 | 「回帰」 | 三重県伊賀市 | |
中村 一夫 | 「思い出の宿舎」 | 静岡県松崎町 | |
黒崎 剛 | 「宇宙物語」 | 新潟県小千谷市 | |
国広 好生 | 「背負い」 | 神奈川県綾瀬市 | |
久野 一夫 | 「新築祝い~想いをのせて~」 | 鳥取県鳥取市 | |
柴田 敬二 | 「紫陽花(あじさい)」 | 島根県安来市 | |
齋藤 志げ子 | 「木蓮(老木)」 | 静岡県松崎町 | |
中島 竜太郎 | 「礼の鏝絵」 | 愛知県一宮市 | |
佳 作 | 堀江 弥太郎 | 「一富士二鷹」 | 東京都三鷹市 |
大櫃 孝之 | 「しあわせの笑顔」 | 島根県安来市 | |
飯泉 詔男 | 「荒磯」 | 長野県須坂市 | |
西根 良幸 | 「月」 | 栃木県益子町 | |
柳沢 行一郎 | 「わぁー!!大きい」 | 神奈川県相模原市 | |
吉田 好美 | 「お茶でもいかが?」 | 神奈川県大和市 | |
高橋 恒彦 | 「鴨に芙蓉」 | 静岡県松崎町 | |
柳沢 艶子 | 「豊作を願って(鳥追い祭)」 | 神奈川県相模原市 | |
松留 喜美江 | 「能面」 | 東京都大田区 | |
山本 榮一 | 「雨上がりの旅情」 | 神奈川県大和市 |
最優秀賞作品
「薔薇とクリスタル」
土橋 庄一
京都府京都市
自然のバラの花のやわらかさと人工のクリスタルグラスとの質感の対比が見事です。透明なグラスを通して見える茎の様子が真正面から見た場合には少しズレているのは意図的な表現であろうと推察します。手を触れたらこぼれ落ちそうなはなびらのデリケートな様子の表現は、第9回展の時の作品における課題への挑戦だと記していました。このコンクールへの出品を通して生まれた力作だとすれば、最優秀作品になった意義は大きいと思います。
優秀賞作品
「ふる里」
新井 良作
埼玉県川越市
これまでの作品では画中の全てのモチーフが強く自己主張していましたが、今回は効果をセーブしコントロールすることによって、画面全体としての雰囲気、情感は高まりました。理屈では分かっていてもそれを自分の表現法として身につけるには大きな努力を傾けられたことと推察します。
「梅花の頃」
番清 光明
広島県尾道市
金泥地の上に制作するのは日本画の技法と同じですが、その表現を筆ではなくて鏝によって盛り上げながら行うので、技術的な困難さはよりハードなものになります。その緊張感がびしっと張りつめた空間構成に生かされているとしたら、それは独自の鏝絵の持ち味だと言えるかもしれません。
入選作品
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「秋の恵の葡萄(ブドウ)」 小野 和司 埼玉県久喜市 |
「試作6号」 大曽根 陽次 愛知県豊田市 |
「ローカル線のユリカモメ」 刑部 安司 静岡県浜松市 |
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「検診」 笛田 将之 埼玉県さいたま市 |
「回帰」 中井 史枝 三重県伊賀市 |
「思い出の宿舎」 中村 一夫 静岡県松崎町 |
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「宇宙物語」 黒崎 剛 新潟県小千谷市 |
「宇宙物語」 黒崎 剛 新潟県小千谷市 |
「新築祝い~想いをのせて~」 久野 一夫 鳥取県鳥取市 |
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「紫陽花(あじさい)」 柴田 敬二 島根県安来市 |
「木蓮(老木)」 齋藤 志げ子 静岡県松崎町 |
「礼の鏝絵」 中島 竜太郎 愛知県一宮市 |