公開日 2016年02月05日
はじめに
建物の壁画に平瓦を並べ、目地に漆喰をかまぼこ型に盛り上げ、その形が海にいる「なまこ」に似ていることから、名付けられたなまこ壁。風雨に強く、防火、保温にも優れ、江戸時代以降各地で作られるようになった。
近年、生活様式の変化や老朽化により数が少なくなっているものの、松崎町には、今もなお多くのなまこ壁の建物が、母屋として、土蔵として人々の日常生活の中に溶け込み、残っている。
白と黒が織りなすデザイン、重厚な外観、入念な仕上げの漆喰、建物にさり気なく施された漆喰鏝絵の妙など、そこには左官職人の技が凝縮されている。今回、町内に残るなまこ壁の建物を写真を通して紹介することにより壁の芸術・なまこ壁の美とそれに携った左官職人の技、伝統的建造物の保存についてを再確認する機会になれば幸いである。
松崎のなまこ壁
セメントや建築用ボードのなかった時代、「なまこ壁」は激しい風雨や火災から人々の暮らしを守ってきた。母屋の妻壁や腰まわり、土蔵などに代表されるが、類焼を避けるように隣接する部分にのみ用いる家もある。町内の分布は中川の池代、大沢、船田地区、岩科の山口、八木山地区、松崎の中宿通りなどに数多く見られる。
なまこの瓦を斜めに貼ることにより水はけをよくしたのは四半目地で、墨出しや逃げの難しさが伴うが、松崎町では一般的にこの形である。
持送りやゑぶり、のし止めなどには、波の模様や雲の型、うさぎに鶴と亀、牡丹に唐獅子などの鏝絵が施され、厄除けや火除け、子孫繁栄などの願いが込められている。腕を磨き技を競い合い、損得や手間をも度外視した職人気質が各所に見え隠れする。
なまこ壁一覧票
地区/種類 | 母屋 | 蔵 | その他 | 計 | 地区/種類 | 母屋 | 蔵 | その他 | 計 |
松崎 | 7 | 17 | 1 | 25 | 明伏 | 3 | 2 | 0 | 5 |
江那 | 4 | 5 | 0 | 9 | 南郷 | 0 | 1 | 0 | 1 |
桜田 | 3 | 9 | 1 | 13 | 山口 | 4 | 20 | 2 | 26 |
伏倉 | 0 | 5 | 0 | 5 | 指川 | 0 | 3 | 0 | 3 |
宮内 | 2 | 3 | 0 | 5 | 松尾 | 2 | 5 | 0 | 7 |
那賀 | 2 | 3 | 1 | 6 | 峰 | 4 | 8 | 0 | 12 |
建久寺 | 1 | 2 | 1 | 4 | 八木山 | 9 | 16 | 0 | 25 |
吉田 | 0 | 0 | 0 | 0 | 中村 | 2 | 3 | 0 | 5 |
船田 | 3 | 8 | 2 | 13 | 野田 | 0 | 3 | 1 | 4 |
門野 | 0 | 0 | 0 | 0 | 金沢 | 1 | 4 | 1 | 6 |
峰輪 | 3 | 4 | 0 | 7 | 道部 | 1 | 2 | 0 | 3 |
大沢 | 2 | 5 | 1 | 8 | 岩地 | 0 | 2 | 0 | 2 |
池代 | 0 | 5 | 1 | 6 | 石部 | 1 | 3 | 0 | 4 |
小杉原 | 0 | 2 | 0 | 2 | 雲見 | 0 | 3 | 0 | 3 |
合計 | 54 | 143 | 12 | 209 |
鬼瓦
棟の両端部に据える丸形や角形の飾り瓦。水の字や家紋を飾ったものや、鬼面の装飾などがある。
妻飾り
切り妻壁に付ける飾り。家紋などが見られる。
のし止(熨斗止)
棟積みに用いる長方形の平瓦(熨斗瓦)をとめるもの。
ゑぶり(柄振り板)
建物の部材の先端を隠すのに用いる化粧板。庇の垂木端などに用いることがある。
折れ釘
L字形の和釘。修理の際の足場かけなどに利用される。
持送り
小屋梁を外のほうへ延長して軒桁を支える軒様式。
鉢巻き
土蔵の壁の上端の厚塗り突出部
破風
切り妻屋根の妻端に付ける細長い板。母屋桁の木口を隠すために打つもの。